老人ホームへ入居する最適なタイミングは?実例を交えて解説します!

 

「終の棲家」として検討される場所には、「老人ホーム」が含まれます。入居の動機は様々ですが、その際に悩まれるのは「いつ、入居すべきか」という問題です。本記事では、老人ホームを運営する株式会社ハピネスランズの代表であり、老後資金アドバイザーでもある伊藤敬子が、老人ホームへの最適な入居タイミングについて、実例を挙げながら解説いたします。

 

「老人ホームに入ると認知症が進む」はウソ?


「認知症になったら仕方ないから老人ホームに入るしかない」
このような考え方を持つ人は、私の周りにも多くいます。広く信じられているのは、老人ホームや病院に入ることが認知症の進行を促進するという言説ですが、実際のところはどうでしょうか。
実は、適切な老人ホームを見つけると、認知症状の進行を抑えることができる場合があります。家族の視点から見て、入居前よりも認知症が改善したと感じるケースもあります。
老人ホームに入居すべきタイミングは、認知症が初期の1年ほどが最も良いことをご存知でしょうか? まずは、老人ホームへの入居のタイミングに関する成功例と失敗例を挙げ、それを紹介します。

入居例1:元気で「まだ早いかな?」という時期に入居したSさんのケース

年金が月15万円で生活するSさんの事例を見てみましょう。
Sさんは骨折を契機に入院し、急性期病院からリハビリ病院(老健)に移り、1ヵ月半にわたってリハビリを受けました。Sさんの長女は、「今回の骨折を機に母を一人暮らしさせることが心配になった」との理由で、老人ホームを検討し始めました。当時はコロナ禍であり、老人ホームのリモート面談を実施したそうです。Sさんは非常に明るく、人との交流が好きであることから、他の入居者と密に関わることができる小規模なホームを勧められ、最終的にそのホームへの入居を決断しました。
「認知症」は高齢が原因で発生しやすいものですが、入院などの環境が急激に変わり、刺激が少ない状況では、「せん妄(せんもう)」として知られる状態になることがしばしばあります。

若い世代の方でも、新しい住まいに慣れていない中で、通勤中に電車を誤って乗ったり、逆方向の車両に乗り込んでしまったりする経験はありませんか? あの「あれ、ここどこだっけ?」という感覚が、せん妄状態に近いと考えられています。
Sさんは退院後、大切な孫のことさえも誰だか分からずに追い返してしまうほどの状態でした。しかし、ホーム入居後の2ヵ月目には体力と認知機能が相当改善し、再び孫の顔を認識でき、一緒に食事に出かけるほど回復したそうです。
Sさんの事例は、老人ホームへの入居タイミングがぎりぎりで間に合ったケースと言えます。
高齢者の認知症をスクリーニングするための簡易な認知機能テストとして、長谷川和夫名誉教授が1974年に考案した「長谷川式認知症診断テスト」があります。このテストでは、30点満点中14~18点ぐらいのスコアが、認知症の進行を抑制するために最適な入居タイミングとされています。点数が示す通りに認知症と診断されても、例えば10点で重度の認知症とされる方でも、老人ホーム入所により、家族が「非常に元気になった」「落ち着いた」と感じ、生活が安定する場合があります。

入居例2:老老介護に限界を感じて入居したHさん夫婦のケース

次に、残念ながら上手くいかなかった例として、Hさんのケースを見てみましょう。

Hさん夫婦は月23万円の年金で暮らしており、約20年間、年齢が88歳になるまでの期間を59歳の長男の近くで共に過ごしていました。しかし、Hさんの米寿を機に、長女の近くにある老人ホームに入居することに決断しました。選ばれたホームは、手厚いサービスと多彩なレクリエーションがあり、介護が提供される有料老人ホームでした。長男は親孝行な方で、両親には広々とした自宅で快適に過ごしてもらいたいという思いから、週末ごとに趣味であるお庭や野菜作りを手伝っていました。
ただし、Hさんは10年前に脳梗塞で妻が半身不随となり、その介護に疲れていました。入居してまもなく、Hさんは肺炎で亡くなってしまいました。「胸が張り裂けそうです。近くに住んでいるから、何かあったら助けてあげられるし、思い出の家で母となるべく長く過ごしたい」という父の願いを尊重し、介護に努めていたものの、家族の介護では限界があり、もう少し早く決断していればと、Hさんの長男は悔いています。
Hさんの負担は限界に達していたようです。入居が1年早かったら、新しい仲間と共に歌や絵画などを楽しむ時間がもう少し増えた可能性があるかもしれません。このようなケースが現在最も多く見られており、2世帯同居や子供との同居の状況で、高齢の両親を心配して最後まで家族が介護に尽力することで、老人ホームへの最適な入居タイミングを逃してしまう事例が後を絶たないのが現状です。

人生100年時代に老人ホームの利用は誰しも避けられない。

人生100年時代において、日本の100歳以上の人口は実に9万2,139人(厚生労働省 R5百歳プレスリリースより)となっています。言い換えれば、約9万人近くの方々が、様々な程度の差こそあれ、100歳以上の親のお世話をされているわけです。筆者の経験では、70代の子世代が体力の限界を感じ、老人ホームの選定に積極的に取り組んでいる様子がよく見受けられます。中でも驚くべきは、98歳の母親が脳梗塞になり、その75歳の子どもが自ら老人ホームを探しにいらした事例です。
75歳以上の方を後期高齢者と呼びますが、この年代に達すると、自分の自己ケアだけでも十分に大変です。それでもなお、親の介護は一層困難であり、現代社会においては老人ホームが必要なケースが増えてきていると言っても過言ではありません。
むしろ注意が必要なのは、家族が介護に限界まで耐えることが、高齢者にとって新しい環境に適応する機会を奪ってしまうことです。

何歳に入居するのかベストなのか?

筆者が75歳での老人ホーム入居をおすすめする理由は、この年齢に達すれば、自分自身で身の回りのことを管理でき、逆に元気な方が多く、他人を手助けできる可能性が高まるからです。もしかしたら、元気なら入居を検討する必要はないのではないかと思われるかもしれませんが、実は元気であるからこそ、この時期が最適なのです。
高齢になればなるほど、新しい環境に適応するのには時間や体力、知力が必要です。しかし、75歳前後で元気な状態であれば、老人ホームが新しい居場所として適応できるのです。

1.食事       
2.運動
3.コミュニケーション

を手伝ってもらえる環境が手に入れば、実は認知症を深刻にせず、食べて、排泄して、喋って……周りに迷惑をかけずに100歳まで過ごせる理想の歳の重ね方が可能になります。

早く老人ホームに入るとその分嵩む「入居費用」

入居費用に充てるのに理想的な方法は、貯金ではなく、年金や家賃収入など、自分が存命の間継続的に得られる収入源を活用することです。最近では、自宅をシェアハウスに提供し、同時にリフォームして古い家の資産価値を向上させ、高齢者オーナーが定期的に巡回できるスタイルが増加しています。国土交通省の「令和元年住まい環境モデル事業」や東京都の「空き家活用事業」には、これらの活用例がさまざまに紹介されています。
さらに、定期預金の利率が非常に低い中で、全てを普通預金として保有するのではなく、新NISAや投資信託などの資産運用を通じて資産を増やしていくことが必要です。重要なのは、将来的に困難な状況に陥る前に、なるべく早くから計画を立てて準備を進めることです。

 

<参考>

厚生労働省 「R5百歳プレスリリース」

国土交通省「令和元年住まい環境モデル事業」

東京都「空き家活用事業」

 

 

 

 

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